29日 4月 2024
ほかほかのご飯。 白く、煌びやかでつるつるなお米。 湯気が立ち、硬すぎず水っぽくなく最高のコンディションで口に入る。 その味は、僕が物心付くよりも前に、身体が勝手に覚えている。 ばあちゃんが、毎年作っていたお米。籾から育てるその原始的な稲作のやり方で、毎年家族だけが楽しめる何よりも美味しいご馳走だった。...
25日 4月 2024
「気持ち悪い」「ウザい」「無理」「生理的に」 基本的にそういうことを言う人間は他人の事をどうも思っていない。 最低だ。僕なんかに思われてもどうせ気にしていない。 しかし、毎日すれ違う知らない人間を、自分が傷付けている可能性だってある。 僕はもう、聞き慣れた。 いかに言葉を避けるかなんて、勝手に慣れた。 慣れてはいけないかもしれない。...
21日 11月 2023
ああ、お腹が減った。何故人間はお腹が減るのだろう。食べては出る。食べては、出る。出るのに、食べる。なぜだろう。お腹が減ったら、どんなに不味そうなものも、美味しそうに見える。この現象に名前は付いているのだろうか?動物の本能。付いてないなら、僕が付けようかな。...
11日 11月 2023
雪が降る景色は、美しい。 美しさとは、単体で意味を成すものではない。 それは、バランス。それは、引き算。美を為さない物がそれを際立たせる。「侘び寂び」という美しさは、「儚さ」を美しさとし、桜は、散るからこそ美しいという。 散って、生を失った物であるだけなのに。...
11日 10月 2023
「本当に、出来るんだ」 赤、橙、青、黄、白、緑。 「絶対出来ないでしょ。出来っこない」 僕の側で馬鹿にしていた、5人兄弟末っ子の弟がまん丸の目を輝かせて四角い物体を見つめていた。 僕は出来ないことが出来るようになった。まぐれかもしれない。小さな奇跡と呼んで良い。...
28日 9月 2023
水・麦芽・ホップの3種類の原料から、ビールは作られる。 小学生の頃、じいちゃんが飲んでいた、銀色のシールが貼ってある瓶ビールの匂いを嗅いで、気持ち悪くなった。そして、じいちゃんが横で「飲むが?」と半目で聞いてきた。 息もビールの匂いがして、ますます気持ち悪くなった。...
19日 9月 2023
仕事が終わって、急いで彼女に電話した。 「いまキャロットスープ作ってるの。」電話に出た彼女はそう言った。電話の後ろで、刻み良いジャズピアノが聞こえる。彼女の得意料理。生姜とサワークリームも入れて、煮込み続ける。 「長くない?」と2回、聞いたことがあるが、もうそれ以上は諦めた。...
16日 9月 2023
雨が黒板を濡らし始めた。白いチョークで描かれた丸く可愛らしい文字は、読みづらくて何を伝えたいのか、理解まで時間がかかった。 「本裕的エスプレット」 これは、「本格的エスプレッソ」と書いているつもりだろうか。 本格的なエスプレッソってもはやそれが何かわからないけど。 イタリアのエスプレッソを知っているのだろうか。...
15日 9月 2023
電車のドアが開くと、そこには1人の少年が立っていて、真っ直ぐこっちを見ていた。 5歳くらいだろうか。家族から少し離れ、電車から出てくる人々にも構わず一歩も動かない。その瞳はずっと私を見ていた。...
13日 9月 2023
十年前に別れた妻はもうどこにいるかもわからない。 昔、好きだった女の子が言った。 「明日、引っ越すの」 突然言ってきたその表情は真っ白で、俺のことなんて見ていなかった。 妻との無言の別れ。無表情。涙こそ流れず、しかしそれほどに残酷な現実だった。 こずえちゃんが自分のロックグラスを両手で包むように持ち、それを見つめて呟くように言った。...

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